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バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

二通目の手紙

前略

今年の日本は、例年に比べてずっと冬の訪れが早いとか・・・・。

十月も十日を過ぎて、つい昨日北海道には、初のみぞれが降った程に、肌寒

い朝を迎える今日この頃です。

さあてっと・・・・そんな今頃、いったいあなたは、どこの国で何をしてい

るのかしら。

予定では、今頃は、共産圏の国に居て、そして一週間後の二十日には、いよ

いよ目的地アテネに到着のようですね。

あなたがここまで来れば、もう私が「おめでとう」の祝辞を送っても、誰も

早すぎるなんて、笑ったりしないでしょうね。

でも、ほんとうに・・・・&、ほんとうに・・・・アジア縦断で、ヨーロッ

パ入りなんて事を、あなたは一人でやり遂げたのですか?

ほんとに?



なんだか、疑っているみたいな書き方をしてごめんなさいね。

でもなんだか、とっても信じられないみたいな・・・・そんなすごい事を、

あなたはやり遂げてしまったんだもの・・・・。

途中で、厭になって帰ってくるんじゃないかとか、強制送還されるんじゃな

いかとか、悪くすると、二度と再び生きて帰れぬのじゃないかしら・・・と

か、あんまりいっぱい不安のタネがありすぎたから、あなたのあまりに悠々

とした旅の便りを眺めていると、何か呆気に取られた感じで・・・・・、こ

んな事なら、心配してあげて損をしたな・・・・、そんな気もしてみた

り・・・、でもまあとにかく、この大きな旅をあなたは、自分の力で、そし

ていろんな人々の善意で、見事にやり遂げたんですものね。

おめでとう!!

私の憧れの一端を、あなたが代わりに実現してくれてるような・・・、そん

な気持がして・・・・・ほんとうに嬉しいです。

心配なことは、でも、この後に予定されていると言う、アテネでのマラソ

ン・レース・・・・、これほんとうに実施されるのですか?

だとしたら、すごく気がかり・・・・・・。



みんな疲れを抱えて、アテネに到着したばかりなのに、正式のマラソンコー

スを完走しようなんて・・・・、いくら若くても少し無理なんじ

ゃ・・・・・いいえ、無茶なんじゃないかと思いますが、でも人を驚かせる

ことが好きな人達ばかり(?)みたいだから、どうせ強行だと思います。

「止めときなさいよ!」なんて言っても、とても通用しそうにないから、も

う今日は黙っておきます。

でも一言!・・・・無理は絶対にしないようにね。

是非一着を取るべきだなんて期待は、全然かけていませんからね。

(でも高校時代、陸上部に籍を置いてたから、負けられないか!?)

ほんとに、身体を大切にね。

日本で毎日、心配し続けている優しいお母さんの顔でも思い浮かべながら、

マイペースで、たっぷりギリシャの空気を満喫してきてね。



そうそう、この間インドからの手紙が届いた日に、あなたのお母さんから、

私に電話がありました。

お母さんは、私よりもずいぶん以前に、インドに宛てて手紙を出したらしい

んだけど、私のと同じで、あなたの手元には届かなかった・・・・とかで、

どうなっているのか、とても心配したりして残念そうでした。

インドや南アメリカ地区の郵便物は、到着率が三割くらいだなんて書いてあ

る記事を見たことがあったので、もしかしたらそうかも知れませんね。

なんてお話をしたのですが、お母さんは、あなたにギリシャ宛に小包も送っ

ているらしいし、とても心配そうでした。

だから、受け取ったらすぐに、その旨をお母さんに知らせてあげて下さい

ね。

                   (中略)

ところであなたは、きっともうたくさん世界中に、お友達が出来たことでし

ょうね。

言葉は通じなくても、どこかで通じ合える・・・・そんな友達が、いろんな

ところに・・・・羨ましいですね。

イギリスへ着いたら、今度は素敵な恋人が見つけられるかも・・・・でも、

その前に南欧の美人に圧倒されちゃっているかも・・・・フフフフ・・・・

ね。

でもたとえ、青い目の恋人が出来ても、そっちにいついたりせずに、必ず日

本へ連れて帰れるように頑張ってね。

・・・・でないと、あなたのお母さんきっと、泣いちゃうと思うか

ら・・・。


でも不思議ですよね。

世界各地を渡り歩いていると思うと、なんだか外国が急に身近に思えます。

高校時代には、「私は、外人のお嫁さんになりたいな。」なんて、映画スタ

ーのポスターを眺めて?うっとりしてたくせに、最近は逆に外人恐怖症みた

いなところがあって、あまり世界地図に見入るような事もなかったのだけ

ど、このころはまた良く、世界地図を開くようになりました。

お便りにも、外国の至る所で、日本人の姿が目に付くようですが、私もあな

たのようにどうしても一度は、ヨーロッパやアメリカを踏みしめてみたい

な・・・・・・、あなたがネパールで出遭った、二人の老人みたいな年にな

ったってかまわないから・・・・そう思います。

でもそれ程、ゆとりのあるお年寄りになれる人は、よっぽど恵まれた人でし

ょうね。

そしてもし、自分がいけないその時は、私の未来の子供たちにでも、夢を託

して、旅出させてやるんじゃないかしらと思います。

あなたのお母さんが、あなたや弟さんを思い切って、旅立たせたのも、きっ

とそういう気持があったからじゃないでしょうか?

・・・・でも、うちの両親は、旅行嫌いだから、私が外国に憧れる気持な

ど、全く理解できないみたいですね。

最も、船にも飛行機にも、あんまり強くない自分には、外国の小説を読むく

らいが、向いているのかも知れないって、自覚もありますが。

でも、イギリスへ到着したら、シェイクスピア劇で有名な場所や嵐が丘のヒ

ースの丘なんかも、見てきて欲しいな・・・・・。

でも逆に、あんまりパブなんかに、入り浸って変な薬の愛用者などにされま

せんように。



イギリスは紳士の国だと信じていた私には、最近のイギリスの内部事情に

は、とても理解しがたいようなことが多くて・・・・・。

けど、表向きじゃなくて、世界のほんとうの姿や、生活の実態をつかみたく

て、旅を続けているあなたには、私の意見なんかきっと、あまり意味のない

ものに思われるに決まってるし・・・・・、だからともかく元気で、そして

注意深く物事に当たって欲しいとだけ祈っています。

最近のニュースでは、タイもクーデターによって、軍事政権へと替わった

り、中国では毛沢東の死後、奥さんの江青女史らが、クーデターを起こしか

けて失敗したとか・・・・、パキスタンでも、無差別殺人があったんです

ね。

あなたの歩いていく後々、世界各地で物騒なニュースが目立っています。

治安状態の良い日本は、案外暮らし易いところなのでしょうか。

(中略)

なんだか、余計なことまで、長々と書き連ねてしまいました。

たぶんまだ、昨日のお酒が身体の中に、残留しているのかも・・・・。

これじゃ、ギリシャへ到着して安心とともに、どっと疲れを感じているはず

のあなたを、随分と退屈させちゃったのではないかと・・・・、チョッピリ

心配しながら・・・・、でも心からあなたの旅の成功をお祝いして、そして

嬉しいことが、これからのヨーロッパ巡りの旅に続いて待ち構えていてくれ

るように、幸運を心から祈っています。

また、ヨーロッパでの住所を知らせてくださいね。

それじゃあ又、いつか!

        十月十二日              一美


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